教育つれづれ

第22話 盗みあう組織、認め合う組織でありたい

平成14年3月21日

 個人的な趣味の世界を持ち出してきて申し訳ないが、落語家の修行は「三ベン稽古」と言われている。つまり、師匠から弟子へ直接稽古をつけるのは三回だけである。後は、俺の芸を盗めということである。そのため、師匠は弟子に自由に自分の芸を見させるし、質問も自由にさせる。しかし、直接稽古をつけるのは三回までである。
 さらに面白いのは、一回の稽古の中身である。三回しか教えないのだから、相当、事細かに稽古をするのかというとそうでもない。
 「これだけは外してはいけない。これが命だ。」といった本質的なことを重点に教え、細かなことはあなたの個性もあるのだから、それは自分で考えればいいといった教え方なのだそうだ。
 これは一般的に仕事を引き継ぐときのポイントであると思っている。前任者から、「これだけは外してはいけない。これだけはこの仕事の核なのだ」といった部分をぜひ伝授してもらおう。苦労したり失敗したりしたからこそ言えることがあるはずである。そして、仕事の核に迫るアプローチは様々あるはず。自分の考えを大切にして、前任者の道筋をなぞるだけの仕事はやめよう。ただし、学びはまねることから始まることも間違いない。
 そして、もう一つ。芸を伸ばすためには適切な評価。苦労して修行を積んだ師匠のみが、弟子の芸の工夫どころが分かるはず。「はい、おまえさん、ここのところの工夫はいいねえ。よござんした。」という師匠からの言葉に、弟子は小躍りして喜ぶそうだ。芸を代々つなぐという古典芸能の世界は、我々の組織の活性化の極意でもあると思っている。

*この文章は平成13年4月2日に職員に新年度を迎えるにあたって示した文書である。

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