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「ストップモーション方式」というのは、もともとはビデオを用いた授業検討の方法に対してつけられた名称である。簡単に言えば、授業ビデオの再生をしばしばとめて、授業のさまざまな側面について多角的なつっこんだ検討を加える研究会のシステムのことである。 その研究会のメリットを文字記録としての授業記録に生かすことができないだろうか、という問題意識から生まれたのが「ストップモーション方式による授業記録法」である。 ![]() 従来の授業記録は、講師の発言と子どもの発言をTとCの記号で区別し、テープレコーダーからおこしたままのものを書きつらねた、いわゆる「T−C型授業記録」がほとんどであった。 しかし、この型の授業記録はわかりにくく、通読するに耐えないものが多い。多大な労力をかけて書かれた授業記録が実際にはほとんど読まれていないという実情ある。ビデオを用いた授業検討会の方法としてのストップモーション方式が、再生の際しばしば授業の進行をとめてコメントを加えたり議論したりするのと同じように、授業記録でも記録部分の中にコメントや授業構造・前後関係を解明した記述をさし込むと授業の立体的構造が見えやすくなるだろう、というのがストップモーション方式の授業記録法の基本的なアイディアである。 玉置氏の授業の記録にはストップモーションというマークによって段下げに組んだ挿入記述が6か所ほど入っている。そこにはどんなことが書かれているのかを検討してみよう。 | |
<ストップモーション 1>には、エリア・ソフトにおける地面の目標物の位置に関する初期条件についての情報が書かれている。目標物の位置は比例定数を決めているので、一定の入力に対し一定の出力が与えられるカラクリがこれで読者に伝えられる。1.5で発射するとなぜ7.667という奇妙な数値が与えられるのかわかるわけである。これは最初のパートAのFでも一応はふれていたことであるが、授業記録の読者はいちいちそこまで記憶していてはくれない。そこで、最初の教師デモで数値が得られたこの場面で説明を加えておいたのが<ストップモーション 1>である。 このような情報は何もストップモーションとい特別な形式で書くには及ばないと考えられるかもしれないが、そうではない。二、三行以内の簡単な記述ならそれでもかまわないのだが<ストップモーション 1>のような分量の記述になると授業の記録の流れが中断されてしまう。授業記録の本文には授業の中で起こった出来事が基本的には時間的順序に従って記述されている。その中にソフトの構成に関する無時間的な情報が入ると授業の流れのイメージが破壊されてしまう。こうした配慮からストップモーションのような注記の方法を知らない記録者は、分量を気にしてなるべく簡単に、多分カッコなどを使って、短く、従って不親切に書いてしまうという場合が多かったのではないか。その結果は、わかりにくい授業の記録の誕生となる。 授業記録の流れを中断せず、しかも授業の構造の理解に必要な追加的情報を遠慮なく、思う存分、最も適切なタイミングで書き込めるようにする方法 〜それが「ストップモーション」なのである。 | |
<ストップモーション 2>には、記録用紙のことが書かれている。これも1の場合に類似した授業の追加情報である。なぜなら記録用紙はあらかじめ子どもに配られていたものであり、授業のこのステップで配布したわけではないからである。授業の前に配布されているのなら授業記録の冒頭に書き並べておくべきだったと思われるかもしれないが、その考えも正しくない。読者は十分に意味のわからない情報をそんなに覚えていてはくれないからである。そこで、個人追求の作業が始まり子どもが記録用紙を使い始めた。この場面で<ストップモーション 2>として記録用紙のことにふれ、ついでにこの用紙が教師による子どもの思考過程のモニターと指名計画の立案にいかに大きな役割をはたしているかを説明しておいたのである。 | |
<ストップモーション 3>は、授業の中での子どもの行動の意味の解明である。この場面、記録だけではNさんがどうして説明の途中でつまずき、首をひねりながら席についたのかわからない。それについて一つの解釈を与えたのである。 | |
<ストップモーション 4>も3と同じような性格の記述である。ここでは、その場面で授業者の側にどのような目算があったかの情報もつけ加えられている。授業後のビデオ検討会で玉置氏が語られたことをもとにしたのである。 | |
<ストップモーション 5>は、二人の子どもの発言の分析とその比較である。これも3、4と類似の性格をもった記述であるといえよう。 | |
<ストップモーション 6>には、子どもの動きがこの場面ではややにぶいという記録者の印象がのべられている。またその原因についての推測も述べられている。授業の印象は他の場面でもふんだんに表明されているのに、ここだけ、なぜストップモーション形式の記述にしたのかという疑問があるのだろう。記録者(私)はこの場面について抱いた印象が、参観者なら誰でも感じるような種類のものではなく、見方によって違う評価になりうることを自覚しているからストップモーションとして書いたのである。このように、ストップモーション形式をとることによって記録者の授業に対する(主観的であるかもしれない)印象・評価・批判も自由に書き込む道が保障されているのである。 | |
以上のことをまとめると、ストップモーションの形式には次の3つの種類の記述が盛られているといえる。
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これらの記述を、読者の授業理解に役立てるという観点から最も有効・適切と考えられる場所に、あたかも忍者のごとく自由自在に入り込ませることができる、というのがストップモーション記述の有利な点である。 ストップモーション方式の授業記録には、すでにお気付きのように、ストップモーション以外の本文の記述においても従来の記録との大きな違いがある。「T−C型授業記録」にはみられない授業の模写的記述がふんだんに含まれていることである。 | |
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「1 問題把握」の冒頭の部分を参照していただきたい。この部分では教師や子どもの発言そのものの記録は最小限におさえられ、教室全体の雰囲気を伝えるのに必要な事実が書き込まれている。『』で示した発言以外にも『ハイ、日直さん』に始まって教師はいろいろなことを言っているのだが、それらは全て省略されている。要するに、ここでの記述の目標は、教師と子どもがふだんからとてもよい関係にあること、見なれない参観者がいるけどふだん通りリラックスして楽しく学習にとり組む雰囲気づくりに教師が意を用いていること、その際、教師の性格・風貌・趣味といった持ち味がかなりの役割を果たしていること、などが読者に伝わればよいということである。 次に、問題についての教師による「説明」の部分では、記述がいっそう簡略化され、1.2.3.の通し番号で整理されている。ここでは、教師の発言の記録だけでなく、教師の行動の模写も省かれ、ことがらのあらすじだけが書かれている。読者はすでに<A.自作エリア「当たるのはどこ?」のメイン画面>の記述によって、大体のことはわかっているので、ここで細かにくり変えす必要はないからである。このように部分ごとの記述の中心目標に適合的なように自由自在に記述のスタイルや粗密の度合いを変えるのがストップモーション方式の授業記録の特徴である。 <ストップモーション 1>のあと、教師が口頭で問題を提示する。この発問のことばはしっかりと書きとめなければならない。特に中核になるセンテンスはゴチック体にして目立つようにする手法がここではとられている。 ![]() この教師の問いかけに対する子どもの反応と教師と子どものやりとりは、ほぼ逐語的に記録されている。この部分では、言葉をそのまま記述することで臨場感を出しているのである。 | |
以上、記録本文の書き方のポイントを実例に即して述べた。要約すれば次のようになるだろう。
なお、玉置氏の授業の記録で明らかなように、私は授業記録の作成に当たって次のような約束ごとに従っている。
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