議事録

■日時:2003年11月6日(木)19:00〜

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
<篠岡中・植松先生の授業検討会>
・実践単元は中学校1年理科「水溶液の性質」
・今回の検討会では、指導案はビデオを見学した後に配布。
・チェックシートには心が動いた時間にチェックをつける。またどんな内容に心が動いたかをチェックする。
・ビデオでの検討会が終了後、それぞれがチェックをつけた時間を発表し、特に心が動いた人間の多い時間について検討をすすめる。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【授業ダイジェスト】
*以下、植→植松先生の発言、生→生徒の発言。
○最初に植松先生より
植:本日は、身のまわりの物質の勉強。まず、「溶ける」と言う言葉について、これまでの自分の人生で見たり、聞いたり、感じたことがあるとおもいますが、それを自分の言葉で表現してみてください。

○生徒からの意見
生:ものが無くなること(ほかに9人の生徒が同意見)
植:この教室には28人いますが、そのうち、約3分の1の子は、「溶ける」というのはものが無くなることだと考えていますね。
生:水とまざると見えなくなる。
植:今、二つの意見が出ましたね。「水とまざる」と「見えなくなる」です。
生:水とまざる(ほかに8人の生徒が同意見)
生:見えなくなる(ほかに10人の生徒が同意見)
生:物体が弱くなる
*この生徒の意見に対し、植松先生は「物体って言ってくれたけど、これは物質と言い換えてもいいかな?」と確認。
植:物質が弱くなるという意見は先生、生まれて初めて聞ききました
生:分解されて細かくなる(ほかに2人の生徒が同意見)
生:ものの形が変わる

○生徒からの意見を受けて
植:みんなの意見を見てみると「なくなる」と「こまくなる」というのは対立しているね。ほかに「見えなくなる」と「形が変わる」という意見も対立している。
植:本当はみんなの意見が一致したら、実験をやる必要もないかなと思っていましたが、今でてきた意見では、みんなの意見が対立しているね。では、実際にどうなっているかを、実験して確認してみたいと思います。
*「溶ける」ことを実際に目で見て確認するために、生徒を前に集めて、実験をはじめようとする。

○植松先生による実験前の説明
植:ビーカーに水をいれ、ここに塩化ナトリウムを溶かしてみます。
*ビーカーにスプーンで微量の塩化ナトリウムをすくう。水に入れる前に植松先生は再度生徒に「今から入れるからね」と確認をとる。そして、微量の塩化ナトリウムを水の中に入れてみる。
植:溶ける様子は見える?
*生徒からは「見えた」「見えないよ」という声が飛び交う。
植:溶けることが見えるかどうかが問題だよ。見える?
生:見えない。
植:どうやったら見える?
生:途中が見えないからわからない
生:もっとたくさん入れたらわかる
植:じゃあもう少し多く入れてみよう。(先ほどより多い量の塩化ナトリウムをスプーンですくい、水に入れてみる)
植:「どうかな?」
生:塩が沈んでいるのは見える。
植:これでは溶けるのがみえないね。どうしようか。
*生徒からいろいろな意見が出る。その中に「ガーゼに入れて水につるしてみたら」という意見が出る。
植:じつは、先生はこんなことも考えて、ちゃんと溶ける姿が見えるように、ガーゼを用意しました。これに塩を入れて吊るしてみようか
*おもむろにガーゼやら串やら実験に必要な道具を差し出す植松先生。そのたびに「何だ、もっているじゃん」と生徒からは楽しそうな笑い声が聞こえる。。
*植松先生がガーゼに塩を入れ。ガーゼをゴムでつつみ、竹串にガーゼをさして、水に入れてみようとする。
*入れる瞬間に手を止めて、「せっかくだから、みんなでやってみて、自分で確認してください。こんなこともあろうかと、みんなの分の道具は、全部先生が用意しました」とグループ分の道具を取り出すと、生徒からは歓声があがる。

○実験直前に再度説明
植:ビーカーに水を入れたら、水が落ち着くまで机に置いておきます。水を入れたばかりだと、水が舞っています。みんなの気持ちも落ち着いていないので、ビーカーを一度置いてください。その間に今日、配布したプリントの説明をします。
*生徒は少しざわついた雰囲気だが、すぐに植松先生に注目する。
植:みんなのとっても大事な力として、他の人に自分の考えを表現する力があります。ちゃんと考えたり感じたりしたことを、相手に内容が通じるようになるべく正確に溶ける様子を表現してください。言葉だけじゃなく、みんなにイラストで書いてもらうように、図も用意しています。右側については「言葉」で、驚いたり、不思議に思ったことを書きましょう。見たこと全てではなく、「こんなことを見つけた」「こんな不思議なことがあった」と他の人に伝えたいことを選んで書いてください。
水とみんなが落ち着いたところで、それでは時間は10分ぐらいで、実験をやってみてください。


○生徒による実験
*生徒はグループごとに作業。
*ビーカーに塩化ナトリウムを包んだガーゼを入れた状態で、じっと見ている生徒。グループで溶ける様子についていろいろと言葉を出し合うグループ。ともかく、生徒たちの意識はじっとビーカーに釘付けである。植松先生は机間指導をしながら、子どもたちがプリントに書き込んでいる内容を確認。
*絵を描くのに夢中な生徒には、「言葉で説明してごらん」と語り抱える植松先生。机間指導しながら、プリントに赤ペンでチェックし、「いい意見だね」と話しかける。
*「なくなった」と書いた生徒に「見えなくなったんだよな」と言葉の使い方、本当に示したいニュアンスについて植松先生から確認。

○実験後、意見発表
植:今、実験でみたことを発表する前に、まず、みんなが見たものを何かに例えてみてください。「〜みたいに何とかだった」と例えてみてください。
*生徒はグループでいろいろと話し合いながらたとえを書き込んでいる。

○例えた内容の発表
植:それでは、みんなに何に例えたのかを聞いてみます。
生:シロップみたい
生:井戸みたい
生:ガムシロップみたい
生:砂時計みたい
生:滝みたい
生:うどんの麺を出すやつ
生:マグマみたい
植:マグマって、本当に見たことあるの?
生:テレビで見たことあるよ!
植:なるほど。テレビで見たのか。このテレビで見たっていうのも、自分で見たり聞いたりしたことだね。なるほど
生:かみきりの赤ちゃんが生まれるときの様子
生:今、雨降っているみたいな様子
植:なるほど、こんな意見が出ました。それでは、次に、観察して記録したことを発表してもらいます。これは黒板でまとめます

○観察した内容について発表
生:ガーゼから塩化ナトリウムが糸くずみたいに出てきて、溶けて、少なくなる。
生:溶けるスピードがだんだん遅くなる。
植:スピードって?
生:ガーゼから出てくる量が多いときは溶けるのは早い。少ないときは遅い。
生:細かくなっているだけで、溶けていない。
生:底に溶けているやつが溜まっていくような感じで溶けている。
生:確かに最初はしたに溜まるけど、その後もう一度上に上がってくる。
生:質量が重いとき、下に流れる。一緒の質量になると見えなくなる。
生:溶けるスピードが速いうちはしたに溜まっているけど、スピードが遅くなると、上にまう。
生:下の方がもやもや、上の方が透明になっている。
植:みんなから、いろいろな意見が出ているんだけど、ここで一回、使う言葉を統一しよう。「もやもや」するって言葉にまとめよう。いいね。
*生徒の発表に対し、植松先生はひとつひとつのコメントを繰り返し、うなずいている。

○先生が実験を実演。
植:いろいろな意見が出てきているけど、今から先生がみんなと同じ実験をしてみます。
*プロジェクターで前の画面に大きく映し、先生がプロジェクターを通して再度説明。
植:みんなの意見がどういうことかを確認してみよう。「もやもやと出てくる」「底に溜まる」という意見があったけど、どうかな?どの辺りまでもやもやしているのが見える?
生:見えなくなる。
生:なくなる。
植:ちょっとまって、ここできちんと確認しよう。今、「見えなくなる」と「なくなる」という二つの意見が出ましたが、言葉にきちんとこだわろう。ここではどっちかな?
生:みえなくなる。
植:そうだね。ここでは事実として「見えなくなる」ということだね。

○次時の課題について
植:じゃあ、ここで、次の時間にやることを説明します。授業の最初にもみんなにはいろいろな意見を出してもらいました。そして、実験のあとにもいろいろな意見が出てきました。また、今、みんなで実際に確認もしてきました。こうやって「溶ける」ということを考えてきましたが、どういうことかは、これからきちんと勉強していきます。そこで、これから溶けることを勉強する上で、「こいつをはっきりすれば溶けるということがわかる!」「何がわかれば、溶けるということがわかるのか」を、プリントの一番最後に書いてみてください。
*再びプリントに「何がわかれば、溶けるということがわかるのか」を書き込む生徒。植松先生は机間指導しながら、いい意見にはペンでチェックをつけ、悩んでいる生徒にはアドバイスをしている。
植:それでは、もう時間がないので、みんなには聞けないけど、何をはっきりさせるために何をやりたいのか、意見を言ってみてください。
生:塩が残っているのか、いないのかをはっきりするために水を蒸発させたい。
生:色をつければ、もやもやが底からどう動いているかが見えると思うので、色をつけてみたい。
生:顕微鏡で水を見てみる。塩があるかどうかを顕微鏡で見てみる。
生:同じ体積をとって、重さを量ればよい。
植:「何がわかれば、溶けるということがわかるのか?」については、ちゃんと自分たちで調べられるかどうかを考えましょうね。すごい機材を使わないとできないようなことは、実際にこの理科室ではできません。自分たちが実際にこの理解室を使って実験できるかどうかを意識してくださいね。次の時間に自分が実験する手立てをイメージできるかを意識してください。
植:じゃあ、他の人の意見については、後はプリントを読ませてもらいます。明後日の次の時間もう一度、理科室に来てください。はっきりさせたいことを、必ず書いてから、プリントは提出してください。

*これで授業は終了
========================================玉置先生司会で検討会
*植松先生の指導案がここで配布される
○時間ごとに「心が動いたこと」を挙手。
1:0人、2:4人、3:5人、4:7人、5:14人、6:7人、7:8人、8:5人、
9:2人、10:3人、11:8人、12:2人、13:5人、14:5人、15:8人
16:4人、17:1人、18:0人、19:0人、20:0人、21:1人、22:3人
23:4人、24:3人、25:6人、26:0人、27:0人、28:3人、29:1人
30:2人、31:7人、32:3人、33:9人、34:3人、35:7人、
36:7人、37:3人、38:5人、39:5人、40:5人、41:1人、
42:3人、43:11人、44:8人、45:4人、46:5人、47:1人、
48:5人、49:7人、50:5人
========================================
*挙手の結果を受けて、下記の時間を検討会で取り上げることに決定。
・4〜6分、33分、41〜43分
*以下、植→植松先生の発言、先→参加した先生の発言。

<3分〜6分について>
*最初に植松先生より「物質が溶けるとはどういうことだろうか?」と生徒から意見を出させている場面。

○授業時の状況の確認
先:これは、最初の時間なの?この前にどんなことを学んだの?
植:これは前時の最後に、次回やることを予告して、あらかじめ「溶ける」ことで思いつくことを生徒に書かせている。これまでの勉強や体験に基づいて、考えられるものを書いてごらんという話をしている。
植:身のまわりの物質ということで、溶けることについて次にやるよ、ということは話している。この段階では、これまでに勉強してきたこと、あるいは実感として感じていることから、今「溶ける」ことに対し、どう考えているかを明確にさせた。子どもたちは9月からずっと物質のことはやっている。また、普段の授業を通して、自分なりに自分の理屈を作って欲しいということは継続的に求めている。

○発問について
先:今回、学習課題は何になるのか?「溶けるとどうなるのか?」か、それとも「溶けるとはどういうことか?」なのか?子どもたちの視点を明確にしたほうが、意見は揃うのではないか、と思った。また、子どもにとってもそのほうが考えやすいのではないかと思った。
植:子どもたちには「溶けるというのがどういうことかをはっきりさせよう」と伝えている。学習課題はどういうことか?だが子どもたちには「はっきりさせよう」と伝えている。
先:ただ、実際に授業では、子どもたちから「溶けるとはどういうことか?」「溶けるとどうなるのか?」の両方の意見が出てきている。課題の与え方はどうだろうか?
先:理科だから先に事象があるのでは。最初に自然がある。それを見て、どう概念を考えていくか、というのが植松先生の理科の授業だと思う。先に事象があるので、その概念をはっきりとさせること、というテーマであれば、ここで生徒の考えや意見の観点が複数あっても、特に問題ないのではないか。今回の授業は、理科って何をやる授業だろうという視点で見ると、植松先生なりの考えが授業としてきちんと提示されているように感じた。
植:実際、意見を言っている子どもたちもこの段階では適当なことを言っている。その適当に言っていることを一度意識させた上で、実際に実験をして事象を見ると、そこではじめて、「問題」が見えてくると思う。
植:個人的には「溶ける」現象の変化の過程に取り組む上で、子どもにはどこからくいついてもらってもかまわないと思っている。「溶ける」とはどういうことかについても、子どもがどっちからみてもいいので、「溶けるとどうなるか?」よりは「溶けるとはどういうことか?」という発問を取った。
先:植松先生の方で、発問の際に迷いはなかったのか?
植:発問時には迷いは全然ない。あくまで「溶けるとはどういうことか?」と問いかける。

○子どもの発言の受け方について
先:「水とまざると見えなくなる」という意見をすっと、二つに分けた点がすごい。子どもの意見を聞いてから、きちんと子どもの意を取って、意見を授業にあわせて分解させている。
先:「言葉にこだわる」というフレーズがキー。きちんと授業での姿勢でも言葉にこだわっていることが、ここからも見て取れた。
先:子どもからキーになるような言葉が出てきても、今回の授業と関係が薄い言葉であれば、その言葉をあっさりと流したのがすごい。授業イメージを明確に持って、そのイメージどおりに授業をしている点が印象に残った。子どもたちから活発にいろいろと意見が出ているが、実は植松先生の方で意図的にコントロールしている。

○子どもとのコミュニケーション力
先:子どもとは、実に安定したやりとりであった。この安定した進行の要因はいったいなんだろうか?植松先生の話術?ともかく、この授業振りは関心する。理科室という生徒が浮き立つ状況下であれだけ安定したコミュニケーションの中、きちんと授業ができるのは、やはり素晴らしい。安心して授業を見ていられた。これがどうして生み出されているのかははっきりさせたい。
先:最初に二人に発言させた上で、その中から大事な意見を3つに分けたのは意図的?
植:子どもたちの意見自体は、たまたまでてきたもの。ただし、意見が出てから、意見を分けさせたり、子どもたちの意見が矛盾しているのを確認させたりしたのは意図的。
先:ある意味では、自分の方向にあわせて流したり、食いついたりというコントロールが明確になっている。どうしても、教師は面白そうな意見が出ると、そちらに食いつきたくなるが、本当に授業イメージを中心に、不要な意見についてはすぱっときって、必要な要素を引き出している。
先:生徒の発言を繰り返していうときに、不要なところを省いた状態で呟いている。また、一人一人の受け応えについても微妙に変えている。こうすることで、子どもは自分の意見をきちんと受け止めてもらっていると感じることができるのではないか。子どもから活発に意見が出てくる姿を見ると、意見を言うことに対する安心感のようなものを感じた。
先:子どもの言葉を取り上げることで意識したのは?
植:なるべく、繰り返してあげる。切り捨てるときは気づかれないように切り捨てる。きられたと子どもに気づかれないように切り捨てることが大切だと考えている。
先:教材観をしっかりもっていて、瞬時に判断する。教材観や授業を通して、植松先生の目指す場所が明確なんだろうと思う。それにつきる気がする。
先:植松先生の返し方の特長として、子どもから「現象」に関する意見が出る場合、「現象」を繰り返したりするなどの返し方で子どもにひょいと返しているが、キーワードにつながる重要な意見が出てくると、語調を変え、力を入れてその言葉を取り上げている。キーワードにつながる意見が、他の答えとは違うんだ、大切な内容なんだ、という意識がはっきりと見える。

========================================<31分〜33分について>
*実験終了後、生徒それぞれがプリントに記載した内容を発表する前に、植松先生から「例えると何に例えられるか?」と生徒に確認している。子どもからは「シロップ」「ガムシロップ」などといった意見が出ている。

○体験の価値付けの観点について
先:いろんな意見が出ているが、わけのわからないことも受け止めて流している。しかし、「マグマ」という意見に突っ込んだ上で、「テレビで見た」という大事な意見が出てくるや、その言葉に対して、「大事な意見だ」ときちんと強調している。これで、体験の価値付けの観点を広げることに成功している。
先:子どもの発言の価値付けがはっきりしっている。「いい発言ですね」という受け方ではなく「〜だね」という受け方に老獪さを感じる。

○「〜に例えてみてください」という発問について
先:例えてみてください、という発問の意図は?正直、ビデオで見ているときに必要なのか?と感じた。
先:15分ごろに「今、見てない人にも伝えられるような」というふりがあった。それを表現させるために、ここでたとえをいれたのではないか。
先:「〜みたい」、という言葉にこだわったのは何のため?
植:この授業は、小単元でいうと頭にある。私は、授業を通して、生徒には問題作りを主にやらせている。それは、学びの主体性というのが、自分で獲得するものだという点にあると考えているから。ここに私はこだわっている。
植:問題作りを理科でやらせようとするときに、「対象のイメージ」と「再生のイメージ」というのを意識している。この両者がぴったり一致すると人間は「当たり前」と感じる。これが全然違ってしまうと「わけわからん」となる。問題作りでは対象のイメージと再生のイメージが微妙にずれている状態が大切だと考えている。
植:対象とのずれを生み出すには、実際に現象を見せることで実現できる。再生のイメージについては、自分の中から湧き出てくるものと、再生されているものがずれなければいけない。そのためには、自分の中から湧き出るものを促さないといけない。そこで、自ら湧き出るものを出す方法として、「何かに例えさせる」ことをやらせている。
自分の言葉で例えたことと、実際に見える対象イメージのどこが違うのか?がはっきりさせられれば、そこで問題意識が明確になるはず。問題意識を明確にさせる方法の一つとして、例えることは考えている。
植:今回は、授業の流れとしてはあまり関係ない面もある。むしろ、こうした検討会という場で使われることを想定したうえで、あえてこの手法は使ってみた。だから、ここでは例えについては、全てを言わせずに、簡単に頭だけをさらっと言わせるようにした。
植:今の子どもたちの場合、知識を書けるんだけど、生きた知識としては使えていない。知識として理解しているんだけど、意味を理解していない。そんな背景もあるので、授業では、あくまで自分で問題を作るという、学びの主体性をテーマにやっている。
========================================<42〜44分>
*子どもから意見が出た後に再度、植松先生の方で塩化ナトリウムを水に溶かす実験をプロジェクターで投影し、出された意見について確認している。
*プロジェクターを見ている子どもたちからは、もやもやしたものがどのあたりまで上がってきているかをみんなで確認する。

○子どもからの意見の取り上げ方について
先:結局、植松先生はほとんどしゃべっていない。うまく司会進行しながら子どもの言葉を導き出している。
先:授業のキーとなる「見えなくなる」「なくなる」という意見は、出ることを想定していたのか?それとも子どもの意見がうまいこと出てきたのか?
植:うまいこと言ってくれた、という感じ。
先:概念が包括的、一般化という観点でどんどん広がっていくイメージを感じた。概念を広げるというのはより一般化に近づけるという感覚だと思う。言葉で説明できる部分を広げるということが、理科の授業では一番大事なのだと感じた。
先:植松先生の授業では、教材観が確固としている。植松先生は常に同じ価値観、感覚を持ち続けて授業している。だから子どもからポイントを指し示す言葉が出てくると、いつでもさっと取り上げることができるのだと思う。
先:理科の見方はこういうものだよ、というのを、子どもがポイントとなる言葉が出てきた場合、すっと話せていた。
先:植松先生の理科は、理科の価値観が非常によくわかる。そして、価値観、授業観があるからこそ、芸がうまいだけの授業になっていない。植松先生の芸のうまさが、きちんと相乗効果として授業に生きるためには、授業観、教材観がポイントとなる。

========================================
<参加者からの感想>
・授業自体が、布石の連続で、きちんと子どもたちの反応も想定した上で、事前に完璧に備えているんだな、というのがわかった。本当はもう少し、どういう言葉を使って、布石にしているのかを教えて欲しいと思った。
・度量が深い。授業を作る深さのようなものを感じた。子どもが浅いところにはまったところをあっさりと切り捨てるから深くなるのかもしれない。きちんと自分の教材観、授業観にこだわって授業している。
・言葉に非常にこだわっている。一言の言葉をきちんと吟味し、少しの違いもピックアップしている。こうすれば、子どもも自然に「言葉を意識する」ようになるのではないかと思った。
・実験に入る前の芸は見事だけど、そこにだまされて欲しくはない。そこはこの授業の本当のポイントではない。大切なのは、理科という授業に対する自らの教材観や、授業へのこだわりをきっちりと持ち続けることにある。植松先生の芸が見事なだけに、そこに引っ張られるとこの授業の本当によいところを、見逃してしまうような気がした。
・子どもの言葉でうまく授業を作っているのも、植松先生が机間指導で子どもの言葉を意図的にコントロールしているからだと思う。これがまさしく授業支援である。植松先生は机間指導で、本当にまめに子どもの書いた内容をチェックし、必要があればきちんと子どもの真意を確認していた。
・机間指導でも原則があった。植松先生は「いいんじゃない」と言葉をかけた子どもだけを、発表の際には指している。この辺りがうまい。

・進行役として一言。最後に感想で意見を言うくらいなら、きちんと検討会の中でも意見を出し合うようにしたい。きちんとシーンごとに検討しているわけだから、その場その場で意見を言わないと意味がない。今日のような感じでは、正直、ものたりない。特に若い先生は、若いからこそ聞けることはたくさんあるはず。素朴な疑問でも構わないから、もっと出して欲しい。
・せっかく、検討に値する素晴らしい授業が見られるのだから、参加する先生は、きちんと自分の力の向上に役立つように、受身ではなく、積極的に意見を述べるようにしてほしい。受身で来るのではなく、きちんと自分なりの目的を持ってくれば、かなり力がつくはずだと思う。

○最後に授業者である植松先生から。
・いい機会を与えていただき、ありがとうございました。本当はもう少し、考えさせられたり、自分が困ってしまったりするような、そんな意見も出てくるかな?とも思いましたが、皆さん、非常に好意的に見てもらった点には、少し、拍子抜けする面もありました。自分が授業で特に意識しているのは、子どもの活動の必然性についてきちんと考えること。それから、発した言葉には責任を持つということです。いつもは、もう少しアバウトな面もあります。子どもたちをもっとしかることもあります。今回はどうしても検討会という面があったのは否めません。しかし、このようにビデオで授業を撮影して、それを見ながら検討会を進めるやり方については、おもしろいなと、感じました。

 

たくみの目次へ