少人数授業の生かし方
小牧中学校数学科2004.3.16

「少人数授業を生かす授業法」について数学科9名と教育コンサルタント大西貞憲さんとで話し合った。
少人数授業特有の授業技術はないというのが結論である。40人であろうと20人であろうと、だれもが特に授業技術を変えているわけではなかった。当初は少人数を生かす授業技術を出し合ってみようとしたのだが、これぞ少人数授業技術!と言えるものをだれも出すことができなかった。有効な授業技術は人数に左右されるものではないという結論である。
では、少人数という授業形態を生かすにはどうしたらよいか。互いの思いを述べあってみると、「見る」ということに集約されることがわかった。以下にその「見る」というキーワードをもとに少人数授業の生かし方をまとめておく。

1 授業前に「見る」

(1)子どものノートから学習状況を見て(つかんで)、授業中にその子どもを生かす。
一斉授業と比べれば、少人数であるほど知り得た情報を生かすことができる。また、ノートに教師がコメントを加える場合も、少人数であれば一人に2倍の時間を費やせることになる。
 (例)
「前の授業でね、この図形の面積の求め方をやったのだけど、○さんのノートを見たら別の方法でもやっているんだね。とても感心したので発表してくださいよ」
「前の授業でまとめを書いてもらったよね。こういうとても分かりやすいまとめをしてくれた△さんのノートがあったよ」
「○さん、△さん、・・・さん、よくできていたね。式もきちんと書いているからいいね」(前時のノート評価)

2 授業の中で「見る」

2−1 授業開始で「見る」
(1)開始時での子どもの表情を見る。授業の準備状況を見る。
少人数であれば、当然子どもの表情を読みとることは容易である。心の準備が整わない子どもがいれば、呼名などをして気持ちを授業に向かわせるとよい。
(2)課題提示をしたときの子どもの表情や動きを見る。つぶやきを聞く。
 授業に生かせる情報は教室の中にあふれていると思ってよい。

2−2 個人追究で「見る」
(1)「○つけ法」で一人一人の取組状況を見る。中間評価をする。
見ているようで見ていない状況を脱却する一つの手法が「○つけ法」である。取組に対して○をつけることができる部分を見つけ評価をする。○つけ法は「○をつける+声を出すこと」の2点セットであることを忘れずに。○をつけることができない状況ならば、○をつける状況にその場でしてしまうことも大切なことである。
(例)
極端な例であるが、課題に対してまったく進んでいない子どもがいれば、その子どもに応じた質問を行い、それに答えられたら、そのことに対してノートに○をつけてやればいい。○だけが描かれることになってもかまわない。
(2)進んでいる子どもを見て、さらに学習を付加させる。
愛教大の志水廣教授は、授業を壊す子どもは「できない子ども」ではなく「できる子ども」であると言い切っている。確かに早くできてしまうと集中力が途絶え、他の子どもへ影響を及ぼし始める子どもが多い。東大の佐藤学教授は、授業をだれさせる子どもは、その子どもにとって背伸びとジャンプをさせる場面がないからだという。できることを続けていたのなら、子どもはだれるというのである。
そこで、進んでいる子どもを見て、その子に適当な負荷をかけたい。「考えがよく分かるように説明を書きなさい」などといった指示は簡単であろう。その際、大切なのは指示をしたら必ず確認すること、そして評価することである。「見る」ことである。書かせっぱなしでは、そのような指示をしても子どもはいずれ書かなくなる。あとで集めてもよい。○をつけて「よく書けた」という一言のコメントでもよい。書いても先生は見てもくれないと思えば、隣の子どもにちょっかいの一つも出したくなるものである。

2−3 集団追究で「見る」
(1)数学的な見方や考え方を見る・育てる
 集団追究時に一番見ることは、子どもの数学的な見方や考え方である。評価の面でも、本校は見方や考え方、関心・意欲は累積評価型としているわけだから、授業で子どもの様子をとらえることは当たり前のことでもある。
 一斉授業と比べると少人数授業であれば、一人の子どもに関われる時間は2倍である。子どもの発言に対して復唱をした上で、補助発問をしながら、さらに子どもの考えを引き出したり、発展させたりする時間が2倍あると考えるとよい。見方や考え方をとらえたり育てたりするには、やはりある程度の時間の余裕は必要である。教科の話し合いでは、この場面こそ、少人数を生かす場面であると合意できたことを付記しておく。
(例)
子ども 「二つに分かれると思います」
教師  「なるほど二つになると思うのだね。なぜ二つになると思うの」
子ども 「y=axのaは正の数か負の数しかないから」
教師  「ああ、そうか。数には正の数と負の数しかないからか。aに入る数値を大きくとらえたんだ。なるほど」
子ども 「あれっ、正の数と負の数・・・」
教師  「あれって、どうしたの」
子ども 「0もあるか・・・」
教師  「0もあるか・・・」
このように子どもの発言を復唱しながら補助発問をしていくと、子どもの見方や考え方をとらえることができる。このように関われる時間が一斉の場合より少人数の方があるわけで、この集団追究の時間をぜひ生かしたい。
なお、上記のように一人の子どもの発言にある程度かかわっていくときの留意点がある。その子どもにかかわりながら、必ず他の子どもの表情を見回すことが大切である。意図的指名をするための情報が得られるはずである。何らかの動きがある子どもを見つけ指名してみるとよい。他の子どもの発言をつないだり、広げたりできる可能性が極めて高い。子どもの言葉で授業を創っていくための大切な技術の一つである。
(2)理解の具合を見る
 簡単に言えば、練習問題に取り組んでいるときに、子どもの理解の具合を見る場面である。少人数であれば、2倍の時間をかけることができる。スピーディに回って授業の密度をぜひ高めたい。

3 授業後に「見る」
(1)小テストやUプリント、ノートから子どもをとらえる
 説明は不必要であろう。「20人以下の人数であれば見てやろう」という気持ちも高まるという正直な発言もあった。まさにそのとおりである。誤答分析なども時にはするとよい。
(2)次の授業展開を考えるためにノートを見る
 授業前に「見る」の項に帰着することであるので、あらためて書くことは避ける。実例だけを示しておこう。
かつて愛教大附属名古屋中の数学科は、毎時間、子どものノートに集め、数学日記を通して子どもの考えをとらえ、次の授業展開を考えていた。「個を生かす」ために絶対に欠かすことができない手法であった。豊田市の和田裕枝先生もどの教科であっても、授業後に集める子どものノートが授業や子どもをとらえるための自分の生命線であると明言している。少人数であることに胡座をかかず、生かす精神をお互いに大切にしていこう。

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