小牧中学校版 総合的な学習と基礎学習(玉置私案)

1999年3月

1      はじめに

平成10年12月に新しい学習指導要領が告示された。今度の改訂の目玉は、「総合的な学習の時間」であるといっても過言ではない。なぜならば、それが「生きる力」を培う上で、「一層重視される教育活動」だと位置付けられたからである。

では、総合的な学習の時間には、何をすればよいのか。学習指導要領の中には、総合的な学習の時間に関する記述は、「総則」にわずかにあるだけである。そのまま転記する。

 


第4 総合的な時間の取扱い

1 総合的な学習の時間においては、各学校は、地域や学校、生徒の実態に応じて、横断的・総合的な学習や生徒の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとする。

2 総合的な学習の時間においては,次のようなねらいをもって指導を行うものとする。

(1) 自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。

(2)   学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む   

 態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすること。

3 各学校においては,2に示すねらいを踏まえ,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題,生徒の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題などについて,学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。

4 各学校における総合的な学習の時間の名称については,各学校において適切に定めるものとする。

5 総合的な学習の時間の学習活動を行うに当たっては,次の事項に配慮するものとする。

(1) 自然体験やボランティア活動などの社会体験,観察・実験,見学や調査,発表や討論,ものづくりや生産活動など体験的な学習,問題解決的な学習を積極的に取り入れること。

(2)  グル−プ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態,地域の人々の協力も得つつ全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制,地域の教材や学習環境の積極的な活用などについて工夫すること。

 

特に注目したいのは、この記述は小学校の「総則」とほぼ同じであるということである。小学校には5の(3)に国際理解に関する学習の一環としての外国語会話等について、加えられているだけである。

このように、総合的な学習の時間においては、必修教科のように目標やねらいと内容が、学年ごとに系統立てて示されていない。

このことについて、児島邦宏氏は、著書「総合的な学習」の中で、次のように述べている。

教科や領域として成立するには、最低、指導の目標やねらいと指導内容とが確定される必要がある。目標と内容が、教科成立の最低条件といえよう。このことに照らして総合的な学習を見たとき、指導の目標やねらいは、ある程度、明確になってきた。しかし、指導内容については、多くの試行がなされている段階で、確定されていないというのが現状である。せいぜい、国際、情報、環境、福祉・健康と課題領域を示したにとどまり、その中でどんな内容を扱うかは、明示できていない。その結果、教科や領域として「総合科」は成立せず、従来の「学校裁量の時間」と同じく「時間」扱いにしたわけである。

中教審の専門委員の立場からこのように述べ、具体的に何をやるかは、「学校の創意工夫」にゆだねることにしたと明言している。つまり、文部省はたとえ具体的な内容まで煮詰まっていなくても、今度の改訂で、「総合的な学習の時間」はどうしても入れておかなければならないもの、「生きる力」を育む中核の教育活動であると判断したのである。

それだけに、「総合的な学習の時間」を軽く考えることはできない。時間数だけを見ても、第1学年は70〜100単位時間、第2学年は70〜105単位時間、第3学年は70〜130単位時間が割り当てられている。3年の音楽や美術、技術家庭の時数が35時間であるから、2倍以上も割り当てられているのである。この時数を、総合的な学習の目的と具体的なわずかな例示を基に、教科書もない状態でこなすのである。どこかの誰かがカリキュラムを作ってくれるわけではない。2002年まで待てば、指導内容や指導方法が明らかにされるものでもない。それゆえ、新学習指導要領完全実施までの3年間で、小牧中学校としての「総合的な学習の時間」のあり方を十分検討し、試行的な取り組みも実施していくことが、ぜひとも必要である。

 

2 小牧中学校版「総合的な学習の時間」を考える出発点

小牧中生徒の日ごろの様子を考えると、総合的な学習の内容として、文部省が示した「国際理解、情報、環境、福祉・健康」といった学習は、なかなかイメージが浮かんでこない。

地域や学校の特色に応じた課題を考えても、すぐさま「これだ!」といったものが思い浮かばない。生徒の興味・関心に基づく課題となると、個々の課題決定までの過程を大切にしなければならないことは浮かぶが、やはりこれも苦しい。果たして、最低でも70時間、文部省の大まかな三つの例示の中で、こなすことができるだろうかと思う。

そこで、再度、原点に返って考えてみる。要は、子どもに「生きる力」をつけることである。そのために、総合的な学習の時間が導入されたのである。「生きる力」については、様々な説明がされているが、自分が納得している表現は、児島邦宏氏の「一人前になってこの世を渡っていける力」という定義である。

この定義に従うと、我が校の生徒には、いきなり文部省が示すような総合的な学習を行う前に、総合的な学習を行うための基礎体力を付ける必要があるのではないかと思う。

例えば、調べ学習で、ある場所に訪問してインタビューをするようなことが出てくるであろう。そうしたとき、往々にして時間が割かれるのは、インタビューの内容の指導よりも、挨拶や応対の仕方ではないだろうか。当然、必要なことではあるが、できればこういったことを事前になって指導するようなことは極力避けたい。

「調べたことを自分なりにまとめてごらん」と言っても、日ごろの教科学習を生かして、どれだけの生徒が自己表現できるものなのだろうか。プレゼンテーションの力を付けるための学習が特設されていてもいいのではないだろうか。

上記のことから、我が校としては、総合的な学習の時間を「総合的な学習のための基礎体力づくりの時間」と、「文部省が例示しているような方法で取り組む時間」の二つに分けたい。

 

3 総合的な学習の概要

 上述にしたがって、「総合的な学習のための基礎体力づくりの時間」と、「文部省が例示しているような方法で取り組む時間」に分け、基礎となる方をBタイプ、本来のねらいに近い方をAタイプとする。実際は、それぞれ固有の名前をつけて実施したい。

 

(1)小牧中学校のカリキュラム図と総合的な学習

 初めに概念図を示す。

 

 


テキスト ボックス: 総合的な学習
Bタイプ

必修の教科

道徳・特別活動

 

選択教科2年

  〃 3年

 

総合的な学習

Aタイプ

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 


  

 

 

 

 

(2)総合的な学習AとBの学年別の時間割合(年間70時間)

 


総合的な学習

Bタイプ

 
1学年

 


総合的な学習

Aタイプ

タイプ

 
2学年

 


3学年

 

○ 1学年  総合的な学習B 45時間 > 総合的な学習A 25時間

○ 2学年  総合的な学習B 35時間 = 総合的な学習A 35時間

○ 3学年  総合的な学習B 15時間 < 総合的な学習A 55時間

 

 

(3)総合的な学習Aタイプ 

定 義 @ 主体的に自らの課題を設定し、解決していくことができる力や態度を育てる学習

A      教科等で身につけてきた基礎的・基本的な学習内容や学習方法、および学習体験     

 を総合する学習

B 教科等の学習の枠を超えて存在する学習課題や学習体験を「総合」する学習

 

学年別の大まかな進め方

第1学年

・ 大きなテーマを教師が提示し、それを元にそれぞれが課題を決定する。

・ 3人〜4人程度のグループによる課題追究とする。

                                       ・ 今後の総合的な学習Aの進め方を理解することを主目的とする。したがって、
 追究の手順を大切にしたい。

・ 追究結果は、A4判4枚程度のレポートとする。発表会は開催しない。

第2学年

・ 前期 大きなテーマを教師が提示し、課題意識を高めるための基礎的な学習を組む。その学習を元に課題をそれぞれが決定する。(20時間)

  後期 大きなテーマを元に各自が取り組みたい課題を決定する。(15時間)

・ 個人、あるいは3人程度までのグループによる課題追究とする。

・ 前期は課題決定までの段階に重点をおく。後期は追究過程の段階に重点を置く。

・ 追究結果は、前期はA4判4枚程度のレポートとする。後期は、B紙大の用紙にまとめ、何らかの発表会を開催する。

第3学年

・ 大きなテーマを受け、各自が年間を通して取り組む課題を決定する。

      個人、あるいは3人程度までのグループによる課題追究とする。

      追究結果は、各種メディア(紙、コンピュータ、音楽、実物等)を使って、まとめる。

      大きなテーマ別に発表会を行い、1,2年生もその発表会に参加する。

      ボランティアや保護者にも発表会の案内をする。

 

(4)総合的な学習Bタイプ 

総合的な学習Bタイプは、図1で示しているように、必修教科、選択教科、総合的な学習Aの核となる学習、基礎体力づくりをする学習である。しかし、一般的に言われている教科学習の基礎・基本ではない。次に例を示す。

学 習 項 目

内        容

備  考

企業のあいさつから学ぶ

店舗で働く人々は、最初はあいさつの練習から始まるという。大きな声で、さわやかにあいさつすることが大切である。実際に店舗の店長を招き、実際に企業ではどのようなあいさつの訓練がされているか、どのようなことに気をつけているかなどの話を聞き、あいさつの練習をする。

1時間

外部講師可

電話の掛け方教室

取材活動の中で、電話を使って、調べたり、問い合わせたりすることも多くなるであろう。社会人1年生として最初に訓練される項目の一つである。実際に企業の方を招き、正しい電話の掛け方の練習をする。

1時間

外部講師可

礼状の書き方

取材活動のお礼に礼状を書くことも大切である。礼状の書き方の基本を実習を通して学ぶ。

2時間

国別あいさつマスター

国によってあいさつの言葉はもちろん、アクションが違う。国際人の第一歩として、国ごとのあいさつの違いを学び、広い視野を持つきっかけとする。

1時間

外部講師可

パワーポイント教室☆

プレゼンテーションの道具として、パワーポイントの機能を実習を通して理解する。

6時間

電子メール教室☆

電子メールは取材活動の強力な武器の一つとなるであろう。中学生のころから、マナーを守ったメール活用ができるようにしておきたい。自分のアカウントを利用して、実際のメール送受信を行う。

3時間

情報検索(インターネット編)☆

インターネットの情報検索の仕方を学ぶ。同じ情報検索課題を与え、その結果を発表し合うなど、実際の活動を通して、図書館の有効利用を学ぶ。

3時間

プロの写真を学ぶ☆

取材活動の中で、生徒が実際に写真を撮ることがあるだろう。撮影技術の初歩についてプロを招いて学ぶ。

2時間

外部講師可

電卓の使い方☆

電卓も貴重な道具である。メモリー利用することでその活用の幅はかなり広がる。実際の例を元にその利用法を学ぶ。

2時間

キーボードタッチ☆

今後、コンピュータを利用する場合はかなり広がるであろう。キーボードへの抵抗感をなくし、入力の時間短縮をすることをねらいとして、キーボードブラインドタッチの練習をする。

5時間

情報検索の仕方(図書館利用編)

図書館の活用の仕方を学ぶ。同じ情報検索課題を与え、その結果を発表し合うなど、実際の活動を通して、図書館の有効利用を学ぶ。また、実際に情報検索した結果をまとめる。

3時間

辞典の使い方

各種辞典(国語、漢和、英和)を実際に使って、その使い方と特徴を学ぶ。

1時間

グラフの読み方・作り方

資料分析にはグラフ分析が欠かせない活動となるであろう。世の中には発信者の都合に合わせたグラフ表現がされていることがよくある。具体的な例を元に、グラフの読み取りの基本を学ぶ。

また、実際にコンピュータを使って、グラフを作成する。

6時間

ディベート

充実した話し合い活動を生み出す一手段のディベートを実際に双方の立場で体験しながら、自分の主張を論理的に整理したり、説得力を増したりするための基礎力を養う。

10時間

インタビュー入門

取材活動の基礎基本の一つであるインタビューについて、質問項目の上げ方、問い返しの仕方などを実技を通して学ぶ。

2時間

外部講師可

彩色のポイント

目を引く彩色の仕方、バランスのよい配色の仕方など、実技を通して学ぶ。

3時間

レポートのまとめ方

基本的なレポートの形を学び、実際に書きながら、読み手の立場にたったレポートのまとめ方を理解する。

3時間

法律基礎知識

中学生でも、例えば著作権などは知っておかなければならない法律である。課題追究活動の中で想定される触法行為について学ぶ。

2時間

外部講師可

新聞タイトルに学ぶ

読みやすいレポート、目を引くレポートは見出しにポイントがある。新聞を元にどのようにタイトルがつけられているか分析しながら、自己表現に生かすためのポイント

2時間

外部講師可

新聞づくり入門

新聞づくりの基礎基本を学習する

4時間

外部講師可

キャッチコピーに学ぶ

多くの広告から読み手の心をゆさぶるコピー文を実際に作成する。

2時間

外部講師可

OHP講座☆

OHPの特性や提示技法(合成法など)、TP制作技法、発表での注意事項について学ぶ。

2時間

ホームページ入門☆

自己表現の場としてのホームページ利用は今後かなり広がるであろう。ホームページ作成の基本を実際に作業を通して学ぶ。

6時間

話し方基礎基本

自己表現するための手軽な道具は、まず話すことである。教室や多目的ホールでの発表を想定した声の大きさや発表の際の立つ位置や視線のあり方を実技を通して身につける。

2時間

外部講師可

イメージスキャナ入門☆

情報収集の手段としてイメージスキャナは便利な機器である。基本的な操作方法について学ぶ。

2時間

表計算入門☆

資料分析、蓄積において、表計算の利用度も大きい。基本的な操作方法を学び、簡易な活用例を通して、表計算のよさを理解する。

3時間

現代基礎知識

総合的な学習Aの課題決定に役立つような情報を生徒に提供する時間とする。現代社会を取り巻く諸問題を教師や外から招いた講師から、生徒に知らせ、興味・関心の幅を広げる。

環境、国際理解、福祉、生命、経済など、全体での講演形式や、教室での講義形式も考えられる。

場合によっては、総合的な学習Aで、実施することになる。

外部講師可

      ☆マークのところを総合して、「マルチメディアリテラシー」と表現できる。

      マルチメディアリテラシー以外の項目については、できるだけ講義形式はさけていきたい。外部講師と連携しながら、生徒個々の活動量が多く採り入れた時間を創り出したい。また、外部の研究会との共同開発も今後検討したい。

 

(5)運用形式

 総合的な学習A、Bとも学年運用を主体とする。

総合的な学習Aは、大きく「生徒の課題意識を高める基礎的な学習」と「小集団あるいは個による追究の時間」の二つを考える。

基礎的な学習では、学年の教師が分担をして、生徒の課題意識を高め、掘り起こす学習を仕組む。先行実践校の例を元に述べる。環境学習を総合学習として位置づけた学校のカリキュラムである。この学校の例を元にすると、第1時から第7時までが「生徒の課題意識を高める基礎的な学習」の時間である。第8時以降が、「小集団あるいは個による追究の時間」である。この時間には、発表の時間まで含めている。これらの時間も学年運用する。

時間

 

 

 

学  習  内  容

学習形態

第1時

環境学習オリエンテーション

一斉学習

学級単位

個人

    ↓

グループ

第2時

理科における環境学習

第3時

社会科における環境学習

第4時

家庭科における環境学習

第5時

講話「公害から環境保全へ」

第6時

野外学習「川の汚れを調べよう」

・水質調査、水生生物

第7時

第8時

課題決め

調査

制作  観察

実験  分析  発表等

   

   班 別

第9時

第10時

第11時

以下、略。

 

総合的な学習Bについても、教科の特性を生かし、各教科の立場で運用することもできるが、教科を軸にした時間割は立てにくい。2002年の完全実施までに、指導案を整えて、学年体制で望むことができるようにしておきたい。

  

(6)総合的な学習A,B開発にあたって

      総合的な学習A

 先進校のほとんどの実践が、学年や学校として、大きなテーマを定めている。そのテーマにしたがって、個人あるいはグループが自分の課題を決め、総合的に学習を進めている。本校の総合的な学習Aにおいても、同様な進め方をしていきたい。

  したがって、総合的な学習Aの開発にあたって、初めに学年ごとの大きなテーマを決めておきたい。

      1学年 25時間
「人」 

      2学年 35時間
「自然」

      3学年 55時間

「社会」

テーマについてはあくまでも例示である。

 <1学年>

      3年間にわたる中学校の総合的な学習Aの主旨と進め方が理解できるように、学習の段階をはっきりさせながら進めたい。追究内容より、追究の手順を理解させることを重点とした視点で指導体系を創りたい。

 <2学年前期>

・ 各自のテーマの絞り込みや、幅広い課題解決への取り組みができるようにしたい。「自然」というテーマに基づき、初めの数時間は基礎学習を組む。その後、課題を決定させる。課題決めまでに重点をおいた指導体系を創りたい。

 <2学年後期>

・ 「スキーの生活」との連動も考えて「自然」というテーマで、前期の学習の上にたって進めたい。

 <3学年>

      自己の進路選択の学年でもあるので、「社会」というテーマが思い浮かんだ。進路学習も含めて中学校総合学習の集大成の学年として、できるだけ生徒の活動を保証しながら、自己表現力を高めることに重点をおいた指導体系を創りたい。

  

      総合的な学習B

 a 総合的な学習Bにふさわしいと考えられる内容を各教科の学習内容から洗い出す。

 b 総合的な学習Bにふさわしいと考えられる内容を広く洗い出す。従来の学校教育で扱う内
  容を超えていてもかまわない。(例を参照)

 c 考えられた学習課題を検討し、3学年分の総合的な学習Bの課題と学習時期を決定する。

 c 各教師がいくつかの課題を担当し、授業化に向けて、基本的な指導案を作成する。その際、
  外部の人材の活用が考えられる課題については、授業作りのときから積極的に外部の方との
  相談を進める。

 d 授業化に際して必要な機器、用具、材料を整える。

 e いくつの実践を試みる。

      外部の研究会との連携をはかりたい。現在は、ベネッセコーポレーションが作る研究会との連携を考えている。必要な学習材などを提案し、外部に開発、提供を委託する。また、総合的な学習Bを創り上げるまでの過程を記録し、幅広く世間に公開することを考えている。

 

4 基礎学習について

(1)     なぜ基礎学習が必要と考えるのか

 本校生徒の学力を4月の標準学力検査結果からみると、上位層が少なく、中位から下位にかけての層がやや厚い。また、平成10年度の学校評価を見ると、基礎学力不足を指摘している記述が多い。

 学校評価の中に、「学習は耐えて行うもの」といった学習観を生徒に持たせるべきだといった記述が見られる。しかし、学ぶこと自体はけっして辛いものではない。楽しいものである。こういった記述があるのは、楽しむための元となる力がついていない生徒があまりにも多いということであろう。分かっていてもできないことはある。何度か繰り返すことで身につくこともある。外圧があって、初めて真剣に取り組めた、ということもあるはずである。このような意味での「忍えてこそ身につく学習観」であれば、大賛成である。

 2002年からの学習指導要領を考えたとき、それぞれの教科の内容は削減され、指導内容にゆとりが生み出されているとはいえ、本校の問題点が指導要領の改訂によって解消できるわけではない。また、総合的な学習を豊かに展開するためには、今以上に確かな基礎学力が必要であることは必須である。資料一つ読みこなすにも、最低限の読解力が必要である。

 新学習指導要領では、指導内容の厳選がなされた。そのために従来は、螺旋型に学習内容が組まれていたのが、直線的に組まれている節がある。

 算数・数学を例にとると、現在は小学校でも中学校でも正比例を学習しているが、指導内容の重なりを避けるために、新しい学習指導要領では中学校だけで学習するように改訂された。そのため、数学的に少しずつ拡張しながら、繰り返し学習が進んでいたのが、2002年からは一度きりの学習となっている項目が多い。おそらく他教科でも同様なことが起こっているはずである。こういったことを考えると、なおさら基礎的な内容については、意図的に繰り返し学習するシステムが必要である。

 

(2)     基礎学習で身につけさせたい学力とは 

 「基礎学力をどのようにとらえるか」は大切な問題である。興味・関心こそ、基礎学力だと考える方もある。抽象論では、基礎学習のシステム構築そのものが揺らぐため、あえて基礎学力を次のように定義する。

「教科書に掲載されている問題で、中学校を卒業するにあたって最低限できなくてはならない問題を解く力」(3教科あるいは5教科)

 そして、小牧中学校を卒業するのであれば、上記の力を必ずつけなくてはならない、というように生徒や保護者に宣言すればよい。また、必ずその力がつくように全職員で指導します、と宣言もしたい。

 

(3)     基礎学習システム

 基礎学力をつけるためには、それぞれの教科での取り組みも大切であるが、全校体制で一律のシステムのもとで取り組んだほうが、成果が上がるはずである。また、新学習指導要領下では、授業の単位時間の枠さえもなくなった。各学校の判断に任せられているのである。

 そこで、これをフルに利用して、1単位時間20分の基礎学習の時間を、例えば、月曜日から金曜日まで、帯状にとることにする。例えば、帰りの短活前に、毎日全校一斉に20分間とるのである。その時間は全校生徒が一斉に基礎学習に取り組むのである。

 基礎学習の内容は、先に示した基礎学力を身につけさせる内容とし、3年間の内容を200ステップくらいのドリルとして作成し、習熟に合わせて、各自のペースで取り組ませることにする。ほんのちょっとした高さの階段を上るような、小さなステップのプリントが望ましい。これは、オープンスクールではよく採られている手法である。

 指導者は全職員とする。生徒は、その時間になると、各教科(3教科あるいは5教科)で用意された基礎問題が書かれたプリントに取り組むことにする。問題ができた生徒から、指定された個所に行き、教師から解答をもらい、自己採点後、教師の検閲を受けることにする。検閲の際、そのプリントに対応した問題を2題程度、教師の目の前で解くということにしてもよい。誤答が少なく、そのプリントの内容がよく理解できたと判断された場合は、次のステップに取り組むことになる。

 もっともここで述べたことはあくまでも私案であり、「基礎学習導入」ということであれば、その名称から運用まで、全職員で協議したい。