校内ネットワークを有効活用するためのシステム開発と実践

 1 はじめに

 平成11年7月に「教育の情報化プロジェクト」報告が出された。新世紀に向けて、これからの学校は、情報通信ネットワークを始め、教育の情報化を支えるさまざまなハード・ソフトが導入されてくる見通しが出てきた。

 幸い、本校では平成10年9月に校内イントラネット(「マキネット」と命名)が完成した。同時に専用線によるインターネット接続もできるようになり、これからの学校環境づくりが、すでに始まっている。

 コンピュータは、専用室に41台、全普通教室に各1台ずつの22台、多目的ホールに4台、そして職員室4台、保健室、図書室に各1台ずつ設置されている。また、ネットワーク接続が可能なノートコンピュータを10台所有しているため、合計83台の端末によりネットワーク構築ができるようになっている。さらに多くの職員が個人でノートコンピュータを持ってネットワークにつないでいる。全国にもあまり例のない恵まれた学校である。

 導入からわずか1年であるが、この1年間の取り組みの成果は大きい。校内ネットをより有効に活用したいという思いから開発したシステムもいくつかある。ネットワーク導入前に描いていた構想を超える実践も出てきている。全国の学校に校内LANの設置が始まろうとしている今、本校の飾らない実践を発表することは、一歩先を歩むことができる環境を与えられた本校の責務であると考えた。

 2 校内イントラネット「マキネット」のねらい

 第一のねらいは、校内におけるコミュニケーションを増大させることである。心の問題が叫ばれている昨今、教師と生徒、生徒同士の気軽なコミュニケーションこそ必要である。生徒にも教師にも便利な掲示板機能を充実したり、コミュニケーションを生むためのさまざまな情報を提供したりすることで具現化できると考えた。

 第二のねらいは、教育活動の支援である。たとえば、ネットワークを利用した活発な話し合いを生み出す支援、授業をサポートする豊かな情報提供など、校内のどこからでもネットワークにアクセスできることより、従来考えることができなかった授業を実現させることができると考えた。

 このようなねらいのもと、次のようにマキネットのトップ画面を作成し、生徒や教師が日常的にネットワークを利用するように様々な試みをすることにした。

 3 実践の経緯・内容

 実践の中から生まれてきた本校独自の6つの取り組みを述べたい。いずれも現実にイントラネットを目の前にして生まれてきた活用法である。システム導入前には思いつかなかった取り組みである。必要感から生まれてきた活用法は、効果も大きく普遍性も高い。

(1)  web版「学級日誌」

 「学校を開く」とはすでに言い古された言葉となった感があるが、実際にはなかなか進んでいないのが現状である。外に開く前に、内に開くことさえできていない場合が多い。本校もその例に漏れず、例えば、各学級の様々な取り組みを互いに知り合ったり、学びあったりする機会はあまりない。そこで校内ネットワークを有効に使い、内に開く試みをすることにした。

 学級の行事への目標や取り組み方法などを学級のホームページで発信し、それを生徒が互いに見合うことができると、学級を開く意味で大変効果的である。しかし、現実には学級ごとでホームページを作成することは、技量や作成時間の点ですぐに具現化することは難しい。また、様々な取り組みが日々積み重ねられている中、それに合わせてホームページを更新することも大変である。そこで、視点を変えて、現在取り組まれている事柄で、ネット上で行うことができることがないかと考えたのが、学級日誌である。

 

多くの学校では、各学級に「学級日誌」という、生徒が学級の出来事等を記録する冊子が用意され、担任が学級の様子をつかんだり、担任と生徒とのコミュニケーションを図ったりしている。それを校内ネット上で行うことで、各学級が全校に向けて大いに学級を開くことが可能になると考え開発したのが、web版「学級日誌」である。
 web版「学級日誌」には、web上でその日の学級の様子や感じたことの書き込むが可能で、生徒が入力した事柄に対して、担任がメッセージを加えることもできるようになっている。
 また、web版「学級日誌」はネット上にあるため、だれもがその日の全学級の記録を見ることができる。また、学級を指定すれば、その学級の記録が月単位で読めるようもなっている。(図2)これはネットワーク利用の最大のよさである。従来の冊子形式では、自分たちの学級の様子を他の学級に伝えたり、逆に他の学級の活動を参考にしたりすることは不可能であった。このツールで、まさに「学級を開く」ことが可能になってきている。

 この学級日誌は、校長も楽しみにしており、前日の全学級の学級日誌を読むことが1日の始まりとなっている。また、外向けのマキネットにも掲載しているため、保護者が子どもの学級の様子をこの学級日誌からつかむこともできるようになっている。子どもらしい視点や表現を読んで、感想を学校に寄せる保護者もある。

(2)  班討議支援システム

 社会科の教師から次のような依頼を受けた。現在、社会科では6つの班を作り、それぞれの班ごとに課題を決めて追究をしている。そして、その結果を互いに発表し合い、話し合うという形式をとっている。ところが話し合いの時間に余裕がなく、数人の意見を採り上げるだけにとどまってしまうことが多い。そこを解消するようなネットワークシステムはできないだろうかという依頼である。

 ネットワークこそ、コミュニケーションを生み出すためには有効な道具である。しかし、既存のメールソフトや掲示板機能を利用したのでは、意見交換はできても、それを共有化したり、それを生かして全体討議をしたりすることは難しい。

 そこで、新たに班討議支援システムを作ることにした。システムと言っても掲示板機能を土台にして、班ごとに使いやすいように整えたものである。次に示す機能を持っている。

【班討議システムの機能】(図3)

      個人で書き込みができる。

      どこの班へ投稿するのか指定ができる。(1班から6班まで)

      書き込みの内容の種類を指定できる。(意見・感想・質問・その他)

      書き込める量は無制限である。

      1画面で、6つの班への書き込み(一部)を見ることができる。スクロールバーを使うことによって、誰もがすべての班の書き込みを見ることができる。

      一つの班に焦点を当てて討議できるように、表示の大きさを変更できる。

      授業が終了しても、校内ネット上にあるため書き込みや閲覧ができる。

 

これを活用して授業実践を行った。中学1年社会科で、「アメリカ合衆国が世界の国々に影響を与えているのはどうしてか」という課題のもとで実践をした。この課題について各班で調べ学習を行い、全体へ発表を行った。その後、全員がコンピュータを使って、図3のように入力フォームを使って、それぞれの班に意見・質問・感想を送った。

ネットワークを活用した効果は明らかだった。一人一人が自分なりの考えを表現できたこと、「私も同じように〜」といった表現から、書き込みを見てから入力できるために、全体で話し合いを始める前に、自然発生的にネット上での話し合いが始まったことなどが分かった。このシステムは社会科だけに限らず、多くの教科で活用できることも分かった。

(3)  理科実験集約システム

 これは理科の教師の発案で始まった実践である。「10種類の水溶液の性質を、実験結果をもとにまとめる授業をしたいが、話し合い活動や実験結果の共有化を支援するネットワーク機能が作れないか」という相談を受けた。授業を成立させるのに必要な機能として次の項目が挙げられた。

      水溶液ごとの実験や観察の結果をWeb上で書き込むことができ、従来の授業では実現できなかった意見の集約がすぐにできる。

      1年生6クラスでの実験結果をそれぞれの水溶液ごとにネット上でまとめることができる。

      学習の成果がいつでも利用できるように、ネット上からいつでも情報を引き出せる。

これを受けて、簡易的に作成した掲示板機能が図4である。

 

 

 これを使った授業では、それぞれの班が自分たちの取り組みたい水溶液から実験を始め、その結果を図4の入力画面を使って全体に情報発信することができた。一つの水溶液について、色、BTB反応、におい、蒸発、リトマス試験紙結果など、各班から平均5つほどの情報入力があったため、8班で合計40ほどの情報量となった。これはネットワークを活用しなければできないことである。

また、各班からの情報を水溶液ごとに見ることができるため、入力前に他の班の結果を参考にすることができる。そのため、アンモニアの匂いは「鼻がちぎれそうなにおいと表現した方が分かりやすい」といった、すでに流れている情報に付け加えた情報もあり、ネット上で交流が始まった様子を観察することができた。

(4)動画による活動支援

 保健体育の教師の発想から生まれたwebである。限られた時間に個に対応した支援をするためには多くの教師がいることが理想である。しかし、それは無理なことであるので、コンピュータを活用し、個別支援を可能にしたいという発想である。さらに言葉だけの支援だけでは効果が薄いので、動画による支援を行いたいという願いであった。

 そこで、バレーボール単元において、新たにシステムを開発し実践を行うことにした。授業で学習させたいバレーボールの技術や練習方法を分析し、「パス・サービス・スパイク」の3つのカテゴリーを基にいくつかの項目を作った。例えば、パスの技術と練習メニューをまとめたものが資料1である。

*黒い画面に上記の画像が映るようになっている

 これにしたがって、本校のバレーボール部員に模範演技をさせ、MPEGカメラで撮影した。

 目次等をつけ使いやすい形に編集したページに撮影した動画を貼り付け、いつでもどこでもWeb上でバレーボールの技術や練習方法を見ることができるようにした。

授業では、体育館にノートコンピュータを6台設置し、班ごとの練習目標にしたがって、必要な項目を選択することで、それぞれが必要とする情報を見ることができるようにした。(図5) 

 

 授業では、CDに焼き付けたデータをアクセスする形で利用した。ねらいどおりに各班が画像を利用して、それぞれの目的にしたがって練習をすることができた。なお、このCDは市内9中学校に配布し、各校で利用してもらっている。

(5)保護者への電子メール配信サービスと生徒への公開

 これは学校を開く意味で始めた取り組みである。本校では平成1191日現在、645家庭のうち、101家庭がインターネット接続をしているが、5月から開始した「牧中メール配信サービス」が好評で、それでインターネット接続を決意した家庭もある。「メール配信サービス」とは学校から週に4回ほど届く家庭への学校情報メールである。現在、80家庭ほどが加入している。

 学校新聞、学年通信、PTA新聞等による情報提供は従来どこの学校でも取り組まれてきたことである。しかし、新聞の構成や編集に時間がかかるために、発行回数となると学期に1回、あるいは月に1回というのがほとんどである。実際のところ、これではなかなか学校を開くことは実現できない。

 ところが電子メールによる情報提供となると、手軽に発信できること、文書にして出すまではない、ちょっとした情報も発信できること、速報性があることなどの利点が多い。

そこで、次の例のようなささやかな内容のメールを週に4回ほど発信している。加入している保護者から「学校の様子がよく分かる。学校の考え方もよく理解できる。中学生になってあまり話したがらない息子を持った父親にとっては大切な情報源です」といった感想をいただいている。

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牧中メール配信サービス  99年9月24日

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こんにちは 小牧中学校からのメールです。

昨日は台風の接近に伴い、一日中、生徒も教師もそわそわした状態でした。

いつ暴風雨警報が出るかという期待?で、毎放課、インターネットで天気予報を確認していた生徒もいました。ちょっと前までは、教室で情報を得ることはできませんでした。職員室のテレビが唯一の情報源でしたので、教室では「まだまだ台風は遠い」などと言えたのですが、教室でリアルタイムに情報が得られる状況ではいいかげんなことも言えないようになりました。

昨年の台風で、指令台が飛ばされてしまった本校ですから、早々に外回りの準備を終え、万全を期していたのですが、幸いなことに何事もなく、ほっとしております。

 なお、このメールは校内に向けても発信している。生徒が毎朝見る掲示板に「昨日のメール配信サービス」と称して紹介している。どんなメールが保護者に発信されているかを生徒が知っていることは大切なことで、学校がどのようなことをとらえ、どのように考えているかを理解させる意味でも大切であると考えている。

(6)生徒の関わりを増す「ネットワーク委員会」設立

 ネットワーク運用が進むにつれて、ネットワークへの関わりが教師中心となってきていることに気づいた。このまま続くと、「教師のためのネットワーク」になりかねないという不安が生じてきた。生徒たちが、ネットワークを通じてコミュニケーションを増し、自分たちの学校生活を潤いのあるものにするツールとして、ぜひともネットワークを存在させたいと考えた。

 そのため、本年度4月より「ネットワーク委員会」を新たに設立した。この委員会は各クラスから1あるいは2名の委員を選出して、生徒が校内ネットワークの構想やコンテンツづくりに積極的に関わる組織である。

 4月からの活動を列挙すると次のような活動がある。技能が上がってきたことも相まって、イントラネットのコンテンツ充実にかなりの役目を果たしてきている。

 本校は各教室にもコンピュータが設置してあるために、昼放課などを利用して活動をしているネットワーク委員会の生徒もいる。自分で作成したページが校内・校外に発信できる喜びはやはり大きく、委員が進んで活用している姿は、他の生徒のネットワーク活用への啓発となっている。

4月

 

校内ネットワーク「マキネット」活用のきまりについて検討・協議

Web学級目標一覧作成・発信

5月

Web生徒会執行部・委員会活動計画作成・発信

6月

部活動取材・発信

7月

牧中オリンピックテーマ壁紙作成

9月

体育大会テーマ壁紙作成

後期学級役員抱負取材・発信

 

4 イントラネット運営のための組織作り

 愛知教育大学の飯島康之助教授は次のように述べている。

 「業務として実施するということは、なまはんかな気持ちではできないことを意味している。大学のWWWなどでも、ある教室や事務組織が作ったあと、なかなか更新されないところがあるが、それは業務としての恥さらしをするようなものと言える。責任ある体制を整えるのであれば、きちんとした校務分掌の一環として、それを位置づけるということが不可欠である。」

 外へのホームページ発信だけでなく、イントラネットにおいても校内のコミュニケーションを増大・維持するためには、常に新しい話題や材料提供が必要である。また、新しい授業実践を支援するためのネットワーク上での各種機能開発も、コンピュータを活かす上で欠かすことはできない。

そこで、円滑な校内ネットワークの運営のための工夫について紹介する。

(1)  教員の組織作りと研修

 「マルチメディア活用部会」という組織を発足させた。特に取りまとめ役となる教員は、時間を確保するために担任を持たず、いわば専任的な働きができるように分掌上の工夫をした。また、部会が定期的に持てるように、時間割上に位置づけ、1週間に1度は部会が持てるようにした。

定期的な話し合いは活動を活発にし、現状をふまえた即効性のある取り組みができるため、部会が校内のネットワーク活用の推進役として機能している。

(2)教員の研修

 教員の研修については、教科部会の時間をコンピュータ研修の時間と置き換えて行った。中学校であるために、1週間のいずれかの時間に9教科の部会がもたれている。その時間を利用しての研修である。マルチメディア部員が入れ替わり講師となり、最大5人から最低2人を対象に開く研修会は、少人数だけに効果は大きい。また、基本研修とは別に、教科の特性に合わせた研修を組みこんだために、授業でのコンピュータの活用も活発にすることができた。

(3)イントラネット運営

 マルチメディア部会を中心に、次のような組織を立ち上げ日常的な運営を分担している。

【施設管理】・サーバー(4名) ・コンピュータ室(1名) ・教室(2名)

 ・コンピュータ関連備品(2名) ・特別教室(1名)

【コンテンツ】・小牧中ニュース(1名) ・掲示板(1名) ・学級日誌(各担任)

・生徒会(各委員会) ・クラブ連絡(クラブ担当) ・教科の部屋(1名)

・先生の部屋(1名) ・ジュニア奉仕団(1名) ・会議室(1名)

・校長便り(1名)  ・保健室便り(1名)  ・図書便り(1名)

・進路情報(1名) ・校外向けマキネット(1名) ・各種記録写真(1名)

 コンテンツ作りには、当初はかなり時間がかかっていたが、項目ごとの形式を整えたあとは、短時間で作成することができるようになってきた。また、行事を含め、学校生活の様々なシーンをデジタルカメラで撮るようにした。それを担当者がサーバーの写真記録フォルダに保存しておき、全職員が学年通信等で気軽に利用できるようにしている。

 

5 終わりに

 校内ネットワーク導入からわずか1年であるが、「導入当初1年の間に機能しないことには何年経っても機能しない」というのを合言葉に様々な取り組みをしてきた。

 単にインターネットを利用して情報を得るといった実践だけでなく、校内ネットワークを利用した新しい授業実践が生まれたことを喜んでいる。一つの実践が起爆剤となり、新たな発想が生まれ、それが実現してきている。

 生徒にとってネットワークは、コミュニケーションを活発にし、自らの学校生活を新たに創り出す道具までとは残念ながら至っていない。マキネット委員会を核に、教師も保護者も交えたネットワーク運営委員会を設立し、「ネットワークはみんなで育てるものだ」という意識を学校のみならず、地域でも培っていきたいと考えている。

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